セルフメイドの世界 私が歩んできた道(岩城正夫)
衝撃的におもしろい本をご紹介いただいたので、皆さんにもご紹介しておきたい。
- 作者: 岩城正夫
- 出版社/メーカー: 群羊社
- 発売日: 2005/12/01
- メディア: 単行本
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著者は現在和光大学名誉教授。
この肩書きでぴーんと来る人もいるかもしれない。
そう、岸田秀系列です。ぜんぜん、心理学とか関係ないんだけど、書きっぷりが岸田さんとどこか似ている。例えば以下のようなくだりがそうだ。
ところで、それらの結果を私たちの実験結果とはいわずに、あえて「私の体験からの判断」としたのは、私の気持ちとして、それらの結論を実験結果と呼ぶにはいささか条件が複雑すぎると思うからだ。つまりそうした内容を「自然科学的な実験」として行ない、その結果のデータ整理、そして発表するにはあまりに実験条件が複雑すぎて私にはむずかしい。そうした複雑な条件をうまく整理しながら実験することこそが「科学的」なのだという人もおられよう。しかしいまの私には、そうしたことに精力を費やそうという欲求がない。やってみたい方はどうぞやってみて下さい。
すごい無責任。これは、岸田さんの『ものぐさ精神分析』に通じるいいかげんさだ。
しかし、実際には岩城さんの姿勢は、岸田秀に比べるとずっと真摯で、科学的だ。共通するのは自分が嫌なことや気が進まないことは気持ちいいくらいやらない、というその姿勢である。
で、岩城さんはこの本で何を書いているのか。
まだ全部読んでいないのだが、半分くらい読み進んだ内容と、残りの目次を見るに、ひたすら火起こしの方法と、自作の矢尻の作り方が書いてある。この人、76歳にもなるのに、その情熱のほとんどを火起こしと矢尻作りに注ぎ込んできたのである。なんてアホなんだ。
ただこの火起こしの研鑽作業、半端ではない。
いわゆるキリモミ式の発火法で1分以内に炎を作ってしまう。
冒頭で岩城さんはこんなふうに書いている。
私はこの2〜3年ほぼ毎日1回は火を起こしている。それも古代の方法でだ。木の板の上に木の棒を立て、それを両手のひらでキリモミする。そして1分間ほどもすると小さな火種ができる。その火種でタバコの火ならつけられるが、ローソクの火はつけられない。ホノオ(炎)ではないからだ。でも火種も「火」には違いない。だから火種のできたことが確認できれば、それでその日の発火作業を終えることもある。が、その火種を炎にしてから終わりにすることもある。その方が見栄えが良く、自分でもよりいっそうの達成感がもてるからだ。もしそのとき誰かが見ているなら、かならず炎になるまでやることにしている。その萌芽見ている人が喜ぶのは確実だからだ。
うん。僕は大好きだ。こういうアホな爺さんのことが。
彼の発火法探求の旅は、非常に情緒的かつ情熱的なものだが、ある一面は非常に科学的でもある。
文献にもあたる。素材を厳選する。道具にこだわる。実験・検証を繰り返す。
非常に勤勉なのである。ガスコンロをひねれば火がつくこのご時世に、火起こしにここまで勤勉になること。それはトンマツリを追いかけるみうらじゅん大先生にも似た、すさまじさをも感じる。