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PRIDE武士道其の十三 ウェルター級GP@横浜アリーナ観戦。
試合、興業については、いろんな意見がある大会だったろう。(演出面については、うれしい誤算ばかりでしたけど笑)
僕は、五味隆典のことについて、少し真面目に書いてみようと思う。
PRIDEライト級チャンピオン・五味隆典。PRIDEデビュー以来、破竹の10連勝で初代王座についた彼は、偉大なチャンピオンだけが持つオーラ・・・それこそ、ユーリ・アルバチャコフや辰吉のようなものを備えているように僕の目には映っていた。
それだけに、この日、初防衛戦であったマーカス・アウレリオ戦が終わっての失望感は大きかった。五味よ、それはないだろう、と。
これを読んでいる人のなかに、PRIDEを長くご覧になっている方であれば、僕が、アウレリオにノンタイトル戦(PRIDE 武士道 -其の拾-)で敗れた試合ではなく、今回の防衛戦の結果(判定勝利)に失望したか、ご理解いただけるだろうか。
もちろん、格闘技の試合なのだから、判定勝利は悪いことではない。問題は、今回の五味がそれを狙いにいった、ということにある。
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なぜ、判定勝利を狙いにいったことに失望したのか。僕は何も、「常にKOを狙いにいく姿勢が必要だ」的な理想論をいいたいわけではない。リアルファイトにおいて、常にリスクを犯してKOを狙いにいくことはプロ格闘家として美しいことは確かだけれど、そうあらねばならないと僕は思わない。判定勝ちで魅せることができる選手も少なくはない。
僕が問題とするのは、この文脈において、ほかならぬ五味隆典が、判定勝ちによる「手堅い勝利」を狙いにいった、という点にある。
5日の試合がああいう結果になったのが、ほぼ五味のゲームプラン通りであったということは、試合後の五味のインタビューを読むと明らかだ。
http://www.prideofficial.com/free/news/details.php?id=1162710997
――リベンジに成功しましたが?
自分としては、納得しているんですけど、手堅くなっちゃいましたね。――なかなか前に踏み込めなかったですか?
お客さんは納得してくれていませんけど。僕としては、フックを打たない、強いのを打たない、一発に頼らない、ジャブで我慢強く勝負する、と考えてました。
――アウレリオが判定に納得できないと再戦を訴えていましたが?
僕がチャレンジャーじゃないんで、アウレリオもっと積極的に来るべきだったんでしょうけど。試合後に、『ベテラン同士、頑張ってやっていこう』と話しました。総合はやっぱ、難しいですね。何よりお客さんが納得してくれなかったのが反省点ですね。
五味の言っていることは基本的に正論だ。僕も、アウレリオの抗議はいまひとつ説得力に欠けると思う。彼はチャレンジャーなのだし、アグレッシヴに攻めるべきだった。
では何が問題か。僕は、まさにこのような「真っ当な思考」のもと、五味があのような試合をしてしまったことに、失望感を覚えている。
・初の防衛戦だから
・前回負けた相手だから
・武士道の転機となるような大会だから
五味は今回、もっとも手堅く勝ちを狙える手段を選んだ。
その真っ当な、理路整然とした思考。しかし、そうした「真っ当さ」を破壊するような「危険さ」こそが、五味隆典の魅力であり、力ではなかったか? 僕はそう問いたい。
凡百の選手なら手堅くガードを固めるところで、五味は前に出る。おそるべき勇気(蛮勇?)でカウンターフックをふるう五味は、ファンにとって魅力的である以上に、対戦相手にとって、予測不能の脅威であったはずだ。
今回のように、誰の目にも(もちろん対戦相手の目にも)明かな、ファイトプラン通りの闘いを続けるのであれば、五味の天下はやはり長くないように思う。
「ノンタイトル戦なら」という括弧付で行われる「思いっきり」のようなものが、今のPRIDEライト級のレベルで通用するモノだろうか? 僕は失望感とともに、疑問を感じている。
付記;もちろん、僕は五味が終わった、と感じているわけではない。ただ、以前ほどのオーラを取り戻すことはないのではないか、ということは強く感じている。