愚民ではないと思う

総選挙の結果についてのメディア報道の中で、どうしても鼻につくものがある。
小田嶋隆さんは日記の中で、「小泉劇場」と題して、次のように書かれています。

 しかし、「小泉劇場」という、この五文字を連呼する芸風は、ちょっとやっかいな副作用を含んでいる。

 現在、ワイドショーに出てくるコメンテーター諸氏の間では、このたびの自民圧勝の勝因を小泉劇場(つまり、小泉による劇場型の選挙戦術)の手柄に帰する一方で、政策論議の貧困を嘆く手順が流行しているわけなのだが、どっこいこの流れは、語り手が小泉批判を展開しているつもりでも、最終的には有権者攻撃に着地してしまう。
 つまり、「小泉劇場」というこの言葉を使っている論者の矛先は
「見え見えの田舎芝居にひっかかったバカな観客たち」
 に向かわざるを得ないわけだ。

そうなんですよ。テレビは要するに、ちゃちな小泉自民党に入れた有権者をバカにしているわけですよ。この傾向は、識者のコメントを見ていてもだいたい大勢を占めています。内田樹先生でさえ、(もちろん観点は違いますが)小泉さんのパフォーマンスに「流されて」よって、多くの人が投票した、という点では共通した見解を出している。要するに、自民党に入れたやつは、政策のことをまったく理解しないバカだ、と。

そうでしょうか?

僕は、これはちょっと言い過ぎなんじゃないか、と思っています。

自分自身、投票所に行くまでは自民党に入れようかなあ、と思っていました。そのことを選挙直前の飲み会でぽろっともらしたら、まるでバカを見るような冷たい視線を浴びたことも覚えています。どうして?って感じでね。

どうしても何も、冷静に比較してごらんなさい、と言いたくなりました(言わなかったけど)。

今回の選挙で、とりあえず政権与党になる可能性があるのは自公連立か、民主党+野党連合しかなかったわけですよ。もし民主党になったら、どんな政治・経済状況が訪れるのか。それを想像したら、危なっかしくて民主党なんかには投票できませんでしたよ、僕は。

もちろん、仮定の話だからなんともいえない部分はありますが、まず間違いなく言えることは、民主党が政権をとったとたん、株価は大暴落を始めるでしょう。それはそのまま、せっかく立ち直ってきた銀行の危機をもたらします。民主党だろうが自民党だろうが、日本人は大銀行を見捨てません。必ず、少なからず多額の公的資金が投入されることになったでしょう。この財政状況の中で株価暴落。本格的な経済危機を招きかねない事態になると思います。

そして外交。民主党の外交手腕を評価することは難しいですが、少なくとも「まとも」な外交ができるまでに3年はかかる、とみるのがまっとうではないかと思います。この外交状況の中で3年。待てますか?

年金、郵政民営化、税制・・・これらの所属団体によって利益背反が強い課題群を、寄り合い所帯の民主党がどうやって処理するのか。「小泉独裁」を批判するのはいいが、「独裁者」が妥協を重ねたうえで、遅々として進まない「改革」を、民主党はどのようにやりとげるつもりなのか、と思う。

こうした状況を考えれば、小泉自民党への投票というのはそれほどバカなものとは言えなかったんではないか、と僕は思います。民主党よりまし、と思っても、それはそれほど、無理のない話であろう、と。

僕は結局自民党には投票しませんでしたが、それは、「自民党が勝ちすぎること」を嫌った結果であって、自民党が政権維持をすることには大賛成でした。その思いは今も変わっていません。

たしかに、こうした「勝ちすぎ」状況を読み切れず(誰だって、こんな状況は読めません)、バランスを失ったことは有権者の失態だったとは思いますが、小泉自民党に投票した方々の思考の理路は、それほど愚かなものではなかったのではないか、と僕は思うのです。