阪神不安

阪神タイガースが2年振り5度目のリーグ優勝を果たした。


産まれてから24年間を京都で過ごした僕は、生まれついての阪神ファン。両親・兄弟はもちろん、親戚友人中の阪神ファン率が90%を超える、といったありさま。


そういう純粋培養の阪神ファンにとって、阪神の優勝は、いつも居心地の悪さを覚えるイベントだ。いや、もう少し正確に言おう。阪神の優勝はただただ嬉しいのだけれど、それにまつわるバカ騒ぎと、その報道には、ものすごく居心地が悪くなる、のである。


例えば道頓堀。2年前もそして20年前(85年)の時も、道頓堀に飛び込む人はいた。けれど、僕の知り合いの阪神ファンで道頓堀に飛び込んだ人はいない。


当たり前だ。大阪だけでも数万人以上もの阪神ファンがいる。日本全国ではおそらく、数十万人規模。道頓堀に飛び込むのはそのほんの一部なのだ。しかも(本当に誤解してほしくないのだけれど)、道頓堀に飛び込むのは彼らが「熱狂的な阪神ファンだから」ではない。彼らはおそらく、阪神ファンであろうとなかろうと、「道頓堀に飛び込むような人たち」なのである。


道頓堀飛び込みに象徴されるようなバカ騒ぎは、阪神ファンであることの必須ファクターではない。言わせて頂ければ、真にコアな阪神ファンというのは、スカパー!の衛星中継で毎日テレビ観戦(注:二軍戦含む)を楽しむような人種なのだ。


もちろん僕だって球場に足を運ぶ。甲子園には数限りなくいったし、関東に住むようになってからは、東京ドームや神宮、横浜スタジアムで観戦もした。その時ははっぴも着ればメガホンも叩く。ジェット風船を飛ばす。けれど、道頓堀に飛び込んだりはしない。


では、どちらが真の阪神ファンなのかというと答えはそう簡単ではない。観戦態度は人それぞれ。どのような形があっても、人に迷惑をかけなければそれは「あり」だ。


ただ、僕の個人的な見解を言わせて頂けるなら、阪神が勝つことによって不安を覚える人こそが、真にコアな阪神ファンであるような気がしている。負けることが常態であったチームを応援し続けてきた阪神ファンのメンタリティーはねじれている。「勝ってほしいけど、勝ちすぎると不安になる」というのは阪神ファンの特異な精神の在り方であり、関西が持つ関東へのアンチテーゼの1つの表象だ。


いずれにしても、こうした「バカ騒ぎ」をこぞって報道するマスコミの皆さんからは、そこはかとない「関西蔑視」の感情が垣間見える。阪神ファンはバカであってほしい、という願望。いやらしいなあ。


そしてその願望にのって行動してしまう愚民たち。「愚民は愚民批判をする愚民を愚弄するのが大好き」という、小田嶋隆先生の至言を胸に、今日はもう眠ることにしよう。